
解体工事の期間を決める5大要因
解体の「何日で終わるか」は運任せではありません。建物の条件や事前準備の段取りで、おおよその期間は読み解けます。まずはスケジュールに影響する5つの主要因を押さえておきましょう。
建物の構造・規模
一般に木造は短く、鉄骨造・RC造は長くなります。延べ床面積が大きいほど工程も増え、重機サイズや搬出回数が期間に直結します。
立地・接道条件
前面道路の幅員や高低差、隣家との距離、車両の進入難度が上がるほど小運搬や手ばらしが増え、工期が延びます。搬出路の確保は初動の最重要ポイントです。
ここまでで「構造・立地」による基本の差を見ました。次は現場のルールや法的手続きが工期に与える影響を整理して、無駄な待ち時間をなくすコツを解説します。
法的手続き・届出
建設リサイクル関連の届出、道路使用・占用、近隣説明などは実作業の前提です。提出から受理までのリードタイムを逆算し、並行して段取りを進めることが短縮の鍵になります。
有害物の有無(アスベスト等)
含有の可能性がある場合は事前調査・分析、該当時は隔離・負圧養生など別フローが必要です。通常解体ラインと並列では進められないため、必ず手前で時間を確保します。
天候・近隣環境
強風・大雨は作業停止の判断材料です。学校や病院の近接、騒音時間帯の制約があるエリアでは時間割を細かく調整します。
構造別・規模別の期間目安
あくまで平均的な目安ですが、初期計画の参考になります。残置物撤去や外構・基礎の規模で前後します。
木造(25〜35坪の戸建て)
5〜10営業日程度。内装解体→手ばらし→重機解体→基礎撤去→整地の順。狭小地や残置物が多い場合は+数日見込みます。
鉄骨造(30〜50坪の小規模店舗・事務所)
7〜14営業日程度。切断作業や高所安全確保、鉄骨の分別・積載で日数が増えがちです。
RC造(30〜60坪の小規模ビル・共同住宅)
10〜20営業日程度。圧砕・はつり・養生強化が必要で、粉じん対策や搬出動線の調整に時間を要します。
着工までに必要な「見えない期間」
実働の前に発生する準備期間を軽視すると、着工日が後ろ倒しになります。工程表には必ず反映しましょう。
現地調査・見積・契約
現地確認から見積比較、契約締結まで1〜3週間が目安。同条件の相見積で差の理由を確認し、数量前提をそろえると後のやり直しが減ります。
届出・近隣挨拶・ライフライン停止
リサイクル関係届出、道路使用・占用、電気・ガス・水道・通信の停止手配、近隣挨拶に1〜2週間。並行処理が可能なため、担当者を決めて同時進行させます。
ここまでで「準備にかかる時間」を整理しました。続いて、着工後の標準的な流れを日数とともに見える化し、各段階での遅延要因と対策を具体化します。
着工後の標準フローと日数感
解体は上から下へ、内から外へ、安定を保ちながら段階的に行います。代表的な手順と所要の目安は次のとおりです。
養生・仮設(1〜2日)
防塵・防音シート、足場、散水設備、仮囲い、掲示物設置。ここを急ぎすぎると後工程で手戻りが発生し、結局長引きます。
内装解体・分別(1〜3日)
石膏ボード、建具、設備機器、配線・配管を撤去し、品目別に分別。雨天時は濡れによる処分単価上昇を避けるため養生を強化します。
上屋解体(2〜5日)
手ばらしと重機解体の組み合わせで構造体を撤去。強風時は高所作業を見送る判断基準を事前に決めておきます。
基礎・外構撤去(1〜3日)
基礎コンクリートの破砕、土間・ブロック・カーポート等の撤去。地中障害が出た場合は協議のうえ追加日数を確保します。
整地・清掃・最終確認(0.5〜1日)
転圧・レベル確認・周辺清掃・写真台帳とマニフェストの最終チェックを行います。
「遅れが出やすい」具体例と回避策
遅延は偶然ではなく、予見できる要因から生じます。最初から対策を織り込むことで、工程のブレを最小化できます。
残置物の過多
事前撤去が不十分だと、内装解体に日数が割かれます。写真ベースのチェックリストで「誰が・いつまでに・何を」撤去するかを確定しましょう。
搬出路・駐車スペース不足
近隣との調整で一時的な駐車・転回スペースを確保。警備員配置や時間帯分散で渋滞・苦情を回避します。
ここまでで「現場要因の遅延」を把握しました。次は、天候や有害物など不可抗力に近い要素の付き合い方を見て、工程の余白設計を学びます。
天候・強風
週間予報と当日風速で作業可否を決める基準を明文化。順序差し替え(内装→外部、搬出優先など)でロスを減らします。
アスベスト・特管産廃の発見
事前調査と分析票の準備が最良の予防策です。発見時は別工程に切り分け、作業区分・養生グレード・搬出ルールを再設定します。
ケース別スケジュール例(テンプレート)
初回打合せでそのまま使える簡易テンプレートです。営業日ベースで記載しています。
木造30坪・住宅地・残置物少
Day1 近隣挨拶・養生・足場
Day2-3 内装解体・分別
Day4-6 上屋解体・搬出
Day7 基礎撤去
Day8 整地・最終確認・引き渡し
RC造50坪・前面道路狭い
Day1-2 養生強化・防音パネル設置
Day3-5 内装解体・配管撤去
Day6-10 構造解体(圧砕・はつり)・鉄筋回収
Day11-12 基礎・外構撤去
Day13 整地・写真台帳整理・引き渡し
発注者ができる期間短縮の工夫
発注側の準備で数日単位の短縮が可能です。小さな工夫の積み重ねが効きます。
決裁と情報共有の即日化
想定外対応(地中障害など)の承認フローを事前合意。写真・数量・単価をオンラインで共有し、その日のうちに判断します。
近隣コミュニケーション
着工前説明で作業時間や騒音ピークを案内し、連絡先掲示を徹底。苦情の芽を減らすほど作業停止が起きにくくなります。
工程表の読み方とチェックポイント
実効性のある工程表には、具体的な数量と人員配置、車両台数、搬出回数が記載されます。棒グラフだけの「雰囲気工程」には注意が必要です。
確認しておきたい項目
・養生仕様(シート高さ、防音パネルの有無)
・職長・重機オペ・警備員の配置人数と日数
・品目別の搬出回数とトラックサイズ
・雨天時の代替作業メニュー(順序差し替え案)
・アスベスト等の別工程と写真台帳の提出タイミング
ここまでで「計画の精度」を高める視点を確認しました。最後に、引き渡し後の手続きや、次計画への橋渡しまで含めた時間設計を見ておきます。
引き渡し後の書類・確認
マニフェスト一式、重量票、写真台帳、整地レベルの確認を受領。建替の場合は地盤調査の予約を事前に入れておくと、無駄な待機が発生しません。
よくある質問(期間に関するQ&A)
期間の目安は分かったものの、現場では細かな疑問が尽きません。特に問い合わせの多いポイントを簡潔に整理します。
土日作業は可能?
近隣や自治体のルール次第です。可の場合も、騒音・振動の強い工程は平日に寄せるのが無難です。
途中での家財取り出しは?
安全確保のため基本は着工前に完了させます。やむを得ない場合は作業停止・動線確保を行い、当日中に終える前提で工程を再調整します。
雨が続いたらどれくらい延びる?
連続雨天でも、内装・分別・台帳整理など代替作業を進めれば純粋な日数増は最小化できます。強風時は高所作業を止めるため、風の影響の方が延びやすい傾向です。
まとめ:期間短縮の黄金ルール
期間は「準備で七割」決まります。構造・立地の読み、届出と近隣説明の前倒し、残置物ゼロ化、代替作業メニューの用意、承認フローの即日化。この五点を徹底すれば、無理なく安全に、計画通りの引き渡しが実現します。まずは初回打合せで工程表に“数量・人員・車両”の三要素を明記してもらい、週次レビューで現場と数字を合わせ続けましょう。それが最短・最適の近道です。
